が横《よこた》わっている。作業場の設置者、技術指導者は、きわめて公平といえばいえる率直さで娘たちが立派に男の熟練工なみどころか、外国の技術者の五倍もの能力をもっていることを承認している。ところが、それに対する賃銀となると村の標準、しかも村の女の労銀との比較で問題になって、結局彼女たちの労力に対する報酬としては全く未熟練な日傭娘に等しいものを受けなければならなくなって来る。これを、一つの社会的な矛盾と見るのは誤りであると何人がいい得るであろうか。この矛盾的な賃銀問題の落着を可能にしている根拠は、科学主義工業がどこまでも農村生活の現状を保守して、副業にとどめて置こうとしているところにひそんでいるのである。強請して小規模で分散的な副業に止めておこうとする理由は「集団作業の心理状態には被傭人の気持が多く、共同作業場あるいは家庭工業には農業精神が横溢している」とされているのである。

 これまでも、日本の女は、実に労を惜しまず、雑多な歴史の荷を足くびに引きずりつつ働き、かせぎして来た。今日はさらに一歩すすめて、この複雑な諸条件はそのままで、いっそうの刻苦精励に向ってふるい立たされているのである。
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