しかもやすいという事実を雄弁に語っているのではなくて、何であろう。
 女の性の自然と社会事情から必然とされる勤労とを考えあわせれば、男女同一の労働条件ということでは、まだ性の本来が守られ得ない。女が男と同じ賃銀をとることができても、その上に母性が必要とする生理的休暇、健康相談、托児所がなければ、婦人の勤労者として自然にしたがった生活はあり得ないのである。
 しばしば例に引く科学主義工業の主唱者は、高賃銀低コストを目標としているのであるが、本年の春、ある村で作業場の賃銀が村の労銀の水準に対して高すぎるという苦情が出たことが報告されている。村の労銀というのは恐らく従来の救済工事の日当や日傭労働賃銀(女三十五銭ぐらい)を標準にしてのことであったろう。むしろ意外な苦情を受けた専門家たちは「労銀が多すぎる為に起る弊害について大いに考えさせられた。副業が本業になることを恐れるためである」その問題は、それらの純朴な村の娘たちが一心に精密加工をする作業場を村営とするか、個人に対して多すぎる分は村へ寄附すればよいと解決されたのであった。
 この間の消息を詳細に眺めると、やはりそこには無量の感慨を誘うもの
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