生活の新しい必要は、女に新たなたくましさを与えるであろう。新たな社会的な自覚をも与え、人間としての鍛錬をも加えるだろう。しかしそれは、十文字女史のいうように、ただ、働けば人間ができる、式の簡単な手順のものであろうか。人生とは、そのように、働きかける人間の意志や努力にかまいなく、ひとりでに人間ができ上れる仕組みのものであろうか。
新たな生活条件、古い生活条件、その間の摩擦そのものは、現実的には新たなねうちを生み出す可能性としてのみ存在するものである。一層生産面に結ばれなければならなくなった若い婦人たちが、今日の中から何を身につけて来るか、何を学んで来るかによって、その人々の経験の社会的な価値と、女の歴史とは変って来るのである。婦人が生産面により多く参加しつつあるということが、いきなり婦人の社会的条件の向上を意味しないことは明らかである。現代に処する女としての新しい義務は、今日欲する欲しないにかかわらず新しく増大され、拡大されつつある女の生活経験と、すくなからぬ犠牲との中から、やがて婦人全体の幸福を増す何ものかをつかんで来ようとする根強い努力にあるのである。[#地付き]〔一九三七年十二月
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