する。この根本的な疑問を、それぞれの作家が、どんな歴史の見かたで、どんな歴史のなかで、どんな階級の人として、どんな方法で追究し、芸術化して行ったかが、作品形成の一つの過程である。
 きょう作品を読む人々は、自分が現代の日本の現実の中に働いて生きるものとして生きているという社会的な本質にたって、まともに生きようと欲している、という人生のテーマと、そこにある感覚をしっかりもって、ふれる文学作品の一つ一つについて、心にひきおこされる直感的な判断を大切に保って、それを社会的に文学的に成長しつつ深め展開させて行ってこそ、はじめて、その人としての文学が生れるめど[#「めど」に傍点]がつかまれて来る。そういう心でよんでみれば、古典から現代作家の、国内国外のあらゆる作家が、それぞれに見事な業績をのこしながらも、ほんとに自分の云いたいこと、あらわしてみたい心、描きたい情景だけは、誰もかいていないことを見出して、どんなおどろきと、新しい世界の発見にうたれるだろう。
 多くの文学作品をよんだあと、人はやがて自分で書くようになる、という事実は、決してただ書きかたがわかった結果ではない。他の人々が精神こめて、一
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