自分達の生活が、この沖の小島を見晴すように、一点遙に情を湛え、広々と明るい全景の裡に小さく浮んでいるようで、さよは穏やかな悦びと懐しさとを覚えた。

        二

 それから間もない或る日のことであった。
 さよは、良人と良人の友人と三人で晩餐の卓子についていた。彼女の隣りに良人が座った。彼女の真向には友人が。そして、箸をとりあげて暫くすると、保夫は、
「う? う? う?」
と口の裡で言葉にならない音を出しながら、何か訊くように彼女の方に顔を向けた。
 さよは、良人の顔を見返したが、すぐ答えた。
「ああもういいの、すぐあがって――」
 彼女は、保夫の箸の先が小鉢の浸しものに触れているので、何心なく猿の合図のような「う? う? う?」を、「これに、したじがかかっているのか」と翻訳して聞いたのであった。
 友人は、ナスタアシウムの花越しに二人を見較べた。
「何だね、どうしたの?」
 保夫の説明でいきさつが判ると、彼は、
「ふうむ」
とやや大仰に感服した。
「さすがに夫婦は違うな。僕はいくら考えようとしても、まるで見当がつかなかったよ。……ふうむ、うまい工合に行くもんだなあ」
 さよ
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