を、自然細かに調べる機会を与えられた。そして、親達が、配偶として第一の条件のように云って聞かせてくれた好い人というものが、決して性格として頼れる面白いものでもなければ、まして自分が描いているように、溌溂と熱意ある生活の幸福などは、到底期待出来そうもなく思われ出したのであった。
さよは、当てっこの奥に暗く凄い何かが募って来るのを感じた。彼女は、何気なく夕飯後、夕刊を見ている良人に云いかける。
「今日沢口の伯母様がいらっしゃってよ」
「ほう。何だって?」
「また幸雄さんのことをこぼしていらしったわ。あの人にも困るって。先達っての話は、自分から行って断ったのですって……」
さよは、注意深く保夫の返事を待った。幸雄は従弟で、彼はその兄役をしていた。
「贅沢だな。この就職難のとき自分からいいくちを断るなんて……」
保夫が、自分の予期通りのことを、呑気に云うのを見ると、さよは焦立たしさと悲しさとを同時に感じた。彼女は、複雑に、意地悪く動く自分の心持を、惨めに自覚しながら云った。
「伯母様に申上て置いたわ。今度幸雄さんがいらっしゃったら、きッと保夫がよくお話しするでしょうって。――そうでしょう
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