義の婦人作家ヴァージニア・ウルフが、イギリスで、彼女の住居の近くの川に身を投げて死んだ。六十歳を越していた彼女が、世界よ、さようなら、と書きのこして訣別した「世界」は、潜在意識の世界[#「世界」に傍点]だったろうか。わたしには、そう考えられなかった。
性に関するコンプレックスだけとりあげてみても、それは第二次大戦の時期を通じて、われわれの意識のなかに「コンプレックス」として意識されるものになって来ているし、そのコンプレックスは、ドイツの若い婦人に対してヒトラーの政府が利用したようなものとしてあらせてはならないし、日本軍隊の婦女暴行としてくりかえされてもならないという意識も、明瞭に意識されて来ている。したがって、こんにちフロイドの精神分析をうけつぐ人があるならば、そのひとは、第二次大戦後、性コンプレックスは、その複合体のうちにどれほど多量の経済、政治上の要因をふくんで膨脹して来たか、を見ずにいないであろう。そして、その人も、おそらくは、わたしたちの常識がそうみとめているように、コンプレックスについて語るとき、フロイド流に性意識の圧迫にだけ重点をおくことは、現実におくれていることを発見す
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