[#「人民の現実」に傍点]である。
 石川達三の「風にそよぐ葦」一四四回に、こういう一節があった。「日本の心ある知識階級は、日本の永世中立をのぞんでいる。武装せざる国家、永久平和の国家となることをのぞんでいる。」「しかし葦沢悠平は空想家ではなかった。戦いに敗れ、戦争がいやになったからと言って、それで永世中立ができるものなら、何の苦労もいらないのだ。中立とは(あらゆるギセイを払って)購うべきものであり、永久平和を守ることは、戦うことより困難であることを知っていた。」「日本だけが、この次の大戦から保護されるということは有り得ないだろう。現実を忘れた空想的な平和論は八紘一宇の思想と相通ずる軽薄な夢にすぎない。」
 日本最大の毎日新聞を通じて、数百万の読者がこの思想をよみ、何と考えるであろうか。
 この文章には、現実を理解していない作者の大きい考えあやまりがある。たしかに、平和を守ることは、戦うより困難である。いまの日本の人民男女たるわたしたちは、自主的に戦うというよりもこれまで常にそうであったように権力によって戦わせられることに抵抗しなければならないのであるから。
 日本だけ[#「日本だけ」
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