・思想の自由を奪い、文学を戦争宣伝の方向に利用しようとしはじめた時、プロレタリア文学運動は禁圧された。
 プロレタリア文学運動が窒息させられたことは、ただプロレタリア文学運動だけの問題でなくて、文学の本質の一つである人間生活における理性の探求、現実批判の精神を窒息させたことであった。そのために、それまでは、プロレタリア文学運動に対立し、それとたたかうことで自己の存在意義をあらせていた当時の小市民の文学――市民《ブルジョア》文学――も、自身のうちに発展の可能を見出せなくなって来た。その結果、「不安の文学」という流行がおこり、つづいて「古典を学べ」という流行が生じて、バルザックなど、近代リアリズムの初期の作家が無批判によまれた。けれども、「古典を学ぶ」価値は、こんにちの社会と文学の現実の発展のうちによみとられてこそ意味がある。バルザックの偉大さにしても、西欧のリアリズムにしても、バルザックが彼の時代のフランス・ブルジョア社会の限界・個性の限界としてその作品にくっきり映している歴史性は、公正な評価をもって見られるべきである。こんにちの歴史ではより明確にされている社会の認識に立って、バルザック
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