現代日本の悲劇である殺人や強盗において、人民たるわれわれは、加害者も、日本の軍閥の被害者であるということがわかり、いってみれば被害者同士だといえる。しかし何んでもない動機で、チョット物がとりたくて人の首をしめるような人は、ふつうの市民生活の中にそのままいてもらうことはできない。一種の社会的病人であるから、その人は隔離された生活を余儀なくされる。
夜道がこわい、自分に声をかける人間がおそろしい、雨の降る日に、このかさに入ってらっしゃいとさそってくれる人がウス気味悪い、そういう社会の生活は、何と悲しいだろう。戦争というものは、戦争そのものが残酷なばかりでなく、その戦争によってこわされつくした人間性を動物的な意味での命だけ残してわれわれの中にかえしてよこすということで、その人のためにも、私たちのためにも何というむざんなことだろう。私は戦争に反対する。――[#地付き]〔一九四七年六月〕
底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
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