ないよ!」
[#ここで字下げ終わり]
 号令をかける様に母親は注意した。
[#ここから1字下げ]
「Hさんも、そんなになさらずといいでしょう、少し御仲間入りなさいよ!」
「そうですワ、皆がかおを見合わせて居るのに一人背中を向けた人が居るって云うのは、白粉のむらについたのよりいやなもんですわ」
[#ここで字下げ終わり]
 千世子は合槌をうった。
[#ここから1字下げ]
「大変きどった云い様をしましたネエ、そいじゃあそっちを向きましょう」
[#ここで字下げ終わり]
 Hはつま先で椅子を廻してこっちを向いて、源さんの顔とHさんのかおが並んだ。
 だまってHのかるく動く口元を見て居た瞳を源さんの五分がり頭にうつそうとした時源さんがさっきっから自分を見つめて居たのを知った。すきをねらわれた様な馬鹿にされた様な気になって奥歯のすみに息をためた。そして見すかした凝視を源さんの瞳の中になげつけた。
 源さんはすぐ横を向いた。勝ちほこった心になりながら大切なものを守る様にソーッとHの白い額を見て居た。
[#ここから1字下げ]
「いつもになくだんまり虫だネエ」
[#ここで字下げ終わり]
 ひやかす様に云う
前へ 次へ
全192ページ中67ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング