そっぽを見て足拍子をとってわけもない短い歌をくり返して居た。
 二人の間に短い時が長く沈黙の間に立って行った。
[#ここから1字下げ]
「貴方怒った?」
[#ここで字下げ終わり]
 Hはふり向いて唇のあたりにうす笑をたたえて調子をとって居る千世子を見た。
[#ここから1字下げ]
「いいえなんいも――」
「そんならもっとこっちにいらっしゃいな、そうして何か話して下さいナ」
[#ここで字下げ終わり]
 Hの声はまるですがりつく様に千世子の耳の中を伝わって行った。
[#ここから1字下げ]
「何話しましょうネエ」
「何でも貴方の話したい事」
「一寸わかりませんワ私の今さしあたって話したい事なんて――」
「そいじゃあ私に云わして下さいネいいでしょう」
[#ここで字下げ終わり]
 Hは身体をゆすって深い息をついてそうして話し出した。
[#ここから1字下げ]
「私はネエ千世子さん、こないだ沼津に行った時にもかえってからもそこいら中から嫁を世話して呉れる人があります、でも私は一つ一つ思いきりよくことわって一度でも残念だったとか情ないとか思った事がないんです。それは、――エエ私は天の神様が特別に私の愛し
前へ 次へ
全192ページ中171ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング