却って、
「何よりの事だよ」と云って居た。
 夕方近くなった頃、千世子は芸者の多い小田原の町を歩く事をしたがった。
 それはもうよっぽどここに居なれた頃になっての事だったけれ共、ろくでもない、時によると目をつぶりたいほどの顔やなりをした芸者をつかまえて、紫のハンケチなんかをくびに巻きつけた磯くさい男達ややたらに黄金色にピカツイて居る男達が多[#「多」に「(ママ)」の注記]愛もない無智な顔をしてたわけて居るのや、箱根の山の夕方の紫のもやの中にういてあかりのチョビチョビともって居る路を駒下駄をカラコロと「今晩は――」と云って行く女の姿を見るのなんかは山の手に東京に居ては住んで居る千世子にはかなりめずらしい事でもあり又いろいろな複雑した生活の状態を教えられる様であった。
 小雨のする日に千世子は紺の蛇の目に赤い足駄をはいて大きな模様の着物を着て電車の車庫のわきに本を買いに行った。
 雨にひまな芸者達はまどから千世子の様子をのぞいては大股にシュッシュッと歩くのを見て、
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「色気がないネエ」
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と云ったり、
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「あれが東京の歩き
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