さの中に身をしずめて見たいほどうれしかった。
[#ここから1字下げ]
「アーアア」
[#ここで字下げ終わり]
 堪えられないほどみちた心になった千世子の躰はキラキラとやさしげにまたたいて居る砂の中にうずまった。砂は四方からサラサラ、……サラサラと響きながら千世子の身体をうずめて行った。
[#ここから1字下げ]
「アアアア」
[#ここで字下げ終わり]
 かざりのないいつわりのない千世子の心の声はしずかな空気に小器用な音波になってドッかに消えてしまった。
 迎に来た女中にひっぱられて気ぬけの様な顔をして千世子は宿にかえった。
 海辺に来たらしい気持のする食卓についてからもまねく様な潮なりに心をとられてまっかな箸の先にまっしろな御飯を一つぶずつひっかけてたべたりして居るほどであった。
 夜はかなり暗いあかりの下でほこりっくさい都になぐさめる人もない様にして一日の仕事につとめて居なければならないHのところに絵葉書に短かいたよりをしてやった。
 白い被いをすみから隅までかけて気持の好い夜着にくるまって潮の笑声を子守唄にききなして眠った千世子は六時に起きるまでにHの夢ばかり見て居た。
 寝床から出
前へ 次へ
全192ページ中140ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング