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千世子ははれぼったい顔をしながら云った。
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「同情して下さるんですか。ほんとうにありがとう。でもどうぞあんまり亢奮しないで下さい、こな事はつまるところ私の馬鹿だったお坊っちゃんだった証拠なんですし又こんな目に会うほど私はしょうどなしでもありませんから……」
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悲しいあきらめがさせる様にHは苦しい笑い方をした。
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「ねえ奥さん、あたり前の男なら私位の年にもなって女なんかにすてられたりすればすぐ忘れられるし又それを再びするほどすれた人が多いでしょう? けれ共、どうしても私にはそれが出来ないんです、私は女と云うものを始めてのぞいた時に一番みっともない、めったにないほどのみっともなさを見せてくれたんですもの」
「その方が尊いんですよ。この女にすてられればこっちの女、こっちの女がだめならあっち――そんなにすさんでしまう人だってありますもの――男なんてまして女ほどそういう事に対しての刑罰は重くないんですものねえ。貴方がそれをすっかり忘れてしまって、皆の安心する様に結婚でもなさりゃあなおようござんさね。そんな
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