居た。
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「いくつ位だろう?」
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と三つも四つも上の年を大抵の男は云って居た。
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「らいてうさんの御けらいだヨキット」
「違うよ、先にあの雑誌に出てた写真にあんなかっこうした人は居なかったよ」
「だってあんな頭してるよ、その年にしちゃあ着物の模様が大きいネエ、何だか分らないナ」
「いずれ女にゃあ違いなかろう」
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 その人達は千世子にきこえないつもりでそんな事を云い合って崩れる様に笑った。水ごけをつけて居た人は一寸かおを上げて千世子の頭越しに群れの人達と笑い合って居た。西洋紙を上にかぶせて千世子に渡した。
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「源さんもHさんも、いらっしゃい」
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 白いのどをふくらませる様に向うの水草を見て居る二人をよんだ。
 千世子は、中から三本こまっかい花をぬいた。Hさんは衿に、千世子はリボンの間に、源さんはもてあました様に人さし指と拇指でクルクル廻して居るのを、
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「あんたはさすとこがないからここへしまっときなさいネ」
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 せまい袖口からたもとの中におっことしてやった。三人はあかるい顔をしてあっちこっちと歩き廻ったけれ共、時候のせいでどこに行ってもすきだらけだった。
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「もう五時に近いぐらいですよ。行きましょう、貴方は又かぜを引くんだ、そいでなけりゃあ今夜ねられないかどっちかになってしまう」
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 Hさんは千世子のずったショールをなおしてやりながら云った。
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「ほんとサ、ネ、千世ちゃん帰ろう」
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 源さんはいかにももっともらしく千世子をいたわる様に云うのが千世子には何とか云ってやりたいほどおかしくきこえた。けれ共せっかく丸くなった気分を下らない事でぶちこわすでもないと思って奥の臼歯でかみくだいてそのまんまのんでしまった。
 三人は山の手電車にのった。

        (八)[#「(八)」は縦中横]

 源さんはやたらにはしゃいでいやがるHさんをつかまえて指角力なんかして居る中に、千世子は瞳を定めて段々とくらくなって行く外を見ながら、
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「ほんとうに男って云うものは簡単な事で安心したり気を
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