い様な落しばなしをして居た。千世子の口元はついついゆるみそうになって来た。さっきあんなに怒っておいてすぐ仲間入りさせてもらうと云う事は何となく権威をそこねる様でけぎらいの千世子は自分が先に頭を下げる事は出来なかった。笑いそこねた妙にはばったい口元をしてはなれて歩いた。
Hも又「さっきは私がわるかったからサ、もう仲なおりネ」
とは云いにくかった。二人はどっちか早く「もう」と云い出して呉れればとまち合って居た。
千世子は歩きながらHの様子を見た。ふっくりと柔味のある光線をうけてしおらしげに耳朶やくびすじはうす赤にすき通って居た。時々気にしたらしくまっくろな髪を上げる小指の先が紅をさした様に色づいて居るのや、まぼしいほど白い歯がひかる事なんかを千世子は見つけて思わずうす笑いした。
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「私はあの人のあの娘みたいなきれいなところどころに免じて私から仲なおりをしよう」
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わだかまりない気持でこんな事を思った。人が違った様に顔中笑を一っぱいにして二人のそばにかけよった。
三人はかおを見合わせて何とも云えないほどいろんな感情の入りまじった笑い方をした。そしてお互にさっきの事には小指の先でもさわらない様にいくえいくえにもおしつつんで心のすみの方につくねて居た。
千世子がさっき不きげんな様子をしてから源さんの様子はよっぽどうちとけて来たのを知った千世子は何だか源さんのためにわざわざ自分が怒った様な、又その時をうまく利用された様なだしぬかれた気持になった。間もなく千世子は今源さんがどんな事を思って居るかと云う事まで知った。
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「自分でたくらんだ事を自分でぶちこわして居る」
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千世子は自分を鼻の先でせせら笑った。
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「マいいさ、成ったことだどうせ」
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こんな事も思った。
三人は他愛もない事を話合いあたり前の人の笑う事を笑って妙華園に行った。三人は小さい束を作ってもらおうとあっちをさがしたりこっちをさがしたりして居た。
世間知らずの様ななりをして居るくせにすれた眼と心をもつ男達は千世子の事をいろんな風にとった。千世子は、白い服(うわっぱり)をきて自分のたのんだ花を作って居る十九位の男の手の甲にある黒子を見ながら男の姉の云って居る事をきいて
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