わり]
つきとばした様に叫んだ千世子は男の様な味もそっけもない口元をしてHを見た。Hは苦笑をして源さんと話して居た。
家を出る時っから源さんは、重い進まない気持になって今日こんなところに来ると云い出さなけりゃあよかったとさえ思って居た。
電車の中でも自分の隣りには座らないでHのわきに座った。話をするにもHとする、笑うのにもHの方を見る、いかにもおさなげな事ではありながらたまらないねたましさが湧いて居た。
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「彼《ア》れは己れよりもHを愛して居るんだキット」
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こんな事もフイと思って、
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「デモHより己の方が若い!」
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力ない笑いを瞳の中にうかべた。おっぱらい様のないねたましさに、
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「何だ! 馬鹿らしい、どうだっていいじゃないか……」
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と思いながら千世子の目の動き方から、体の動かし方、手の有り場所まで無しょう[#「無しょう」に波線]に過敏な神経を眼の底にあつめて見守った。
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「ほんとうに己はなぜこんなところに行こうと云い出したんだろう自分で自分の気がしれやしない、千世子はたしかにHを思ってるんだ、そいで己はだしにつかわれてるんだ!」
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観念した様に目をつぶった。いつもとやたらに違ったかおつきや様子に、二人はそんな事とは知らないながらも何となくおだやかでないぞと思った。
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「源さんどうしたの? 気分が悪い?」
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あやす様な口つきで千世子はHの肩ごしに下を見つめて居る源さんに声をかけた。
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「ウウン、なんともないけど、あんまり好い気分じゃない」
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源さんは千世子にいままで用ったことのないほどとげとげした言葉つきだった。
千世子はHとかおを見合せてたまらない様な不愉快なかおっつきをした。
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「何かかんたぐってるんだ、かえったら説明してやれ、馬鹿馬鹿しい、男らしくない感情をもってるんだ!」
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斯う思うとすぐ、今日一日は源さんを思いっきりいじめてやれとむごい心持になった。
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「何が可哀そうなもんか、私を一寸の間でも
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