らジッと床についてしまった。昼間ねて居るのにきたなくして居るのはいやだと云ってシイツも西洋洗濯から来たばっかりのをしかせて枕も羽根を干した方のを出させて紫のビロードの夜着の衿にローズの香水を少しまいた。そしてその中に自分は袖の思い切って長いメリンスの友禅の着物に伊達巻をしめて髪をすっかりのばして横になった。枕元にはすきな本を並べてはりまぜの枕屏風を置いた。
夢中になってすきがって居る人の詩集を抱えたまんま眠った様なさめた様な気持で目を細くあいたりつぶったりして居た。何も考えず、何もしないで居るくせに一週間位てつ夜をつづけた様に頭はつかれきって一人で枕から上げるのはむずかしいほどで、目のそこに絶えず五色の渦が巻いて居た。夜になってから九度ほど熱が出た。頭の中でお湯がにえくり返る様な気がして、目を開いたまんま千世子はポーッとなって居た。小声にブツブツ口小言を云いながら何も彼も忘れはてた様なかおをして寝入ってしまった。そして翌朝目が覚めるまでは夢さえも見なかった。
起るとすぐ、
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「ゆうべはよくねたのに頭が重くってしようがない」
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不平らしい声で千世子は云った。
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「寝る間にのんだ薬の中にかるいモルヒネが入って居たせいかもしれないし又、ゆうべあんなだった今日そんなに急によくなる筈もなしさネ」
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母親は丁寧に説明してやった。だまって首をふった千世子の頬にはかるい笑がうかんだ。連想しやすい頭の中にはモルヒネが強すぎて寝たまんま死んで行った人の話、ポーの早すぎた埋葬の事、ジュリエットの事なんかがすぐうかんだ。
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「かりに私がモルヒネがつよすぎてすっかり死んだ様になってしまったとする。私の知ってる人達は泣きながら前から私の云って置いた通り髪を長くとかして一番好い似合う着物を着せて体のまわりにはいっぱい花をつめてガラスの四方を銀色に光る金具でかざってある中にもって居るすきな指輪だの一つ二つ書いたものや、本と一緒に入れて呉れる。そうして土の中に入れられる、十日ほど立ってフッと生きかえる、私の体は前よりも一層力がこもってきれいになって居る、土の外に出ると、先ず自分の色の白くなったのに驚く。それから家に行く。家のものは幽霊が出る事を信じて居るあの一部の人達の様につっぷ
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