ざけたりなんかしない様にするんだよ、あんなものは下らない廻気なんかして云いふらすもんだからネ」
[#ここで字下げ終わり]
千世子はだまってきいて居たけれどもその云うわけもこんな事を云い出す動機も知って居た。こんな事を云われてから千世子が自分とHとをどれだけ母親が案じて居るか、又どの位の事まで想像して居るかって云う事を知った。
[#ここから1字下げ]
「阿母さんは私とHさんがどうにかなってるんだと思ってるのかも知れない、若しそう思ってたって何も私がつとめて証明してそうでないと思わせなくっちゃあならない事でもなし又自然に分ってしまう事なんだから……」
[#ここで字下げ終わり]
こんな事を思ったっきりであった。そうしてその頃から書きかけて居た事をまとまらないながらも書いて居た。
千世子の仲良くして居るK子が、千世子が海辺に行って居た内一度も便りをよこさなかったと怒ったのももっともなほど段々よそよそしくそうして又段々、千世子には関係のうすいものになりかかって来て居た。
[#ここから1字下げ]
「ネエ、K子さん、あんたこの頃段々変って来る様じゃあありませんか、そいで又……」
[#ここで字下げ終わり]
前髪を高々と出したK子の小さい額を見てそう云う事も一度や二度ではなかった。そうした事のつづく毎に二人の心は段々と遠い所に向って進んで行った。
K子は御嫁の仕度に今までそんなに身を入れて居なかった家庭向の事に懸命になって今まで加なりに知って居た事考えて居た事はすっかり忘れた様になって、知って居る事と云えば先に覚えて来た事をそのままに守って文学と云うものにはうとくなって来るばっかりでそれに対する慾も一頃よりはよっぽど下火なあるかないか位にほか過ぎなかった。
千世子はその人達を悲しい目で見ながら自分の進むべき事を張のある心で進めて行った。
「女の友達なんて――まして私達の年頃の友達なんて下らないもんですネエ、仲がよくなるとなるとすぐなるしはなれるとなるとすぐはなれて一寸だって未練なんてものはもたないんですものネエ。そして御嫁に行く事ばっかり考えて馬鹿になるのを知らないで居るんですもの。
もう一二年したら私は一人ぼっちになって仕舞うかもしれない」
こんな事を小学校時代からの自分の親友の話をして自分の事の様に嬉しがって居るHにする事もあった。物にはまってみやすい千世子はこの
前へ
次へ
全96ページ中84ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング