割合にまち、割合によろこんだけれ共、電車から下りたのは小供達と源さんきりであった。
子供達は母と小さい自分の弟をとり巻いて、こないだのひなのかえった事からバラの一輪さいた事から私の部屋に鼠の出る様になったとやら障子の破けのふえた事まで話してきかせた。
母親は笑ってその報告をききながら一人一人の手をひっぱって見たり頭をこすって見たりして居た。
今までにないにぎやかさではんぱな時候で客は沢山居ながらもしずかなこの家に高い笑声をひびかせて居た。四方をガラスではった娯楽室に皆丸くなってトランプをする、歌をうたう、千世子は少し調子の変なオーガンさえ弾いたほどであった。
ここの家の小供は千世子の女なのに気をかねて居たのが、いかにもうれしそうに三人の弟の間に二人の子がはさまってほっぺたを赤くして居た。
十二時頃までも皆で笑いどよめいて居たけれ共源さんが一番先に寝たのをしおに今日だけお客の小供達は下のひろい座敷に寝に行った。
母は日記をつけ、千世子は短かい感想をかきつけたりして物足りないすきだらけの気持で床についた。
次の日いっぱい砂の中をころげ廻った小供達は又源さんにつれられて東京に行った。行くまで源さんは千世子と二人っきりになりたい様なかおをして居るのを知ってわざと千世子はよけよけして居た。
急に嵐のないだあとの様になった部屋の中に居られない様にはだしのまんま千世子は裏から砂をすべって浜に出てなめらかにひんやりする砂に座った。何と云う事もない悲しみは千世子の心の中いっぱいになって居た。
こんなうすねずみの色の中にこんなこい色の自分の身体をひたして、こんな気持で泣いて居ると思う事はいかにもうつくしげななよなよしげなものであった。
しみじみとホロホロ――ホロホロ――と散って行く涙の一粒ごとに思いをはらんで居る様に感じて居た。まるで幼子の様にわけもわからない事に泣きじゃくって居た。泣きながら千世子の心は悲しみながらこの上ない歓喜に小おどりして居た。
夜つゆにしっとりと長い袂や肩のしんみりしたつめたさになった時千世子は顔いっぱいに笑いながら部屋にかえった。そうしてじきにねてしまった。
三日たったのぼせる様な日に、千世子は十四になる男の子に誘われて一寸ある小峯の原に蓮花をつみに行った。その男の子は大抵の時は少しこごみ勝に下を見て神経質らしい額の大きな高い唇の馬鹿
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