げてあかい子だった。細い白いくびすじに小さく渦まいて髪のかかって居るのは千世子にたまらないほどうれしい事だった。まだ六つ位の児の様なすんだ声とサラッとした皮膚をもって居た。
二人は手をひかれ合ってせまっこい一方は沼のまわりを森でかこんで居るところ、一方は丘の様になった畑の道を通って行った。二人の草履の音はこの頃の時候につり合った音を立てて居た。
だまりあったまんまかなりの道をあるいた。
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「まだなかなか、私少しつかれた」
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千世子がいかにもこの小っぽけなお友達をたよりにする様に云った時、その男の子はポッと赤くなりながら、
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「もうほんの一寸……」
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といい声で云ってふりかえった。
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「あんた達っちゃんて云うんでしょう? 私の名を知ってて?」
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千世子は笑いながらそのかおをのぞき込んで云った。
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「ええ!」
「私の名も?」
「ええ」
「何ての? いってごらんなさい」
「だって……千世子ちゃんてんだって……」
「マア、ほんとうにそうなの、……可愛い名でしょう?」
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こんな事を云って笑い合って小峯についた。青い草の中にまじって白いのや紫のはまぼしいほど咲いて居た。
達っちゃんはすぐかがんできれいなの、きれいなのとつみ始めた。千世子はたんねんにさがして少しずつとって行って時々高い声で、
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「達っちゃんて云う方」
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とよんで見たりうたをうたったりして居た。
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「あのねエ、気をつけないと蛇の穴があるんです、落ちるとあぶないから……」
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千世子と一寸はなれて居た達ちゃんは千世子は自分で守って居てやらなくっちゃあならないものと思って居る様な口調で云って居た。
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「そう、そんならもし落ちそうになったらあんたが援けて下さる? 蛇が出て来たら貴方に『追って下さーい』って云いますよ、そいでもにげないで来たら貴方が先にかまれなくっちゃあ、いけませんよ」
「ええ」
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達ちゃんは真面目な決心した様な返事をして居るのが千世子はもったいない様になってしまった。
[#こ
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