っともない御腹になって利口でもない子供をうじゃ生んで見たり……オオいやな事」
「そいじゃあ若し貴方がこんな人なら一生いっしょに居てもいいと云う様な人が出来たらどうします?」
「そうしたら私はキットその人と約束して死ぬまで別に生活して居るでしょうよ、そいで、会いたい時に会い話したい時にはなしてお互に金銭の事なんか云わないで居た方が私はいいと思います。子供なんか生まないでネエ、馬鹿な子供なんか生んで心配したりするより一代こっきりの方がようござんすよ!」
「それもそうかもしれないけど……貴方みたいに男の兄弟のある人はいいけれ共そうでない人はこまるじゃあありませんか……」
「そんな事大丈夫ですわ、世の中の沢山の女の百人中九十九人半まではお嫁に行きたい行きたいで居るんですもの」
「九十九人半とは? 妙な」
「半分はお嫁に行きたいし半分はお嫁に行っても下らないと思う人があるだろうから……」
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 こんな事を云って二人は何だか自分達のまぢかにさしせまって来て居る事の様なかおをして居た。
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「貴方はそいじゃあ良人にかしずく事の出来ない人間だと自分できめて居るんですか?」
「そうじゃあありませんわ、割合に女よりは入りこんで居ない感情をもった男なんかそんなに私がやきもきしなくったってプリプリさせる様な事はしやしませんワ、でも私はお嫁に行った翌日からきのうまでのかおとはまるで別なかおをして何にも思う事のない様に旦那のきげんとりにばっかりアくせくしてるんなんかって私にゃあ出来ない事ってすワ、旦那が我ままを云って怒りゃあツンとしたかおをしてとりあってもやらないでしょうキット、馬鹿な人だと思ってネエ」
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 千世子はどんな長い時間が立っても今云った事は変りゃあしないと云う様にハキハキした口調に云った。
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「そう云う気持をもって居るんですかネエ」
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 Hはしんみりと云って何か考える様な目つきをしてジっと千世子の眉のあたりを見て居た。
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「私は男にははなれて生活する事が出来るけれ共本とペンとはなれる事は出来ない女なんですもん。やたらに御嫁に行きたがる女の中に私みたいな女も神さまがなぐさみに御造りになったんです、人並はずれの我ままものなんですわねえきっと……」
「……
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