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「目が覚めただろうか?」
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なんかと思って自分で自分を笑った。
二時間ほど立ってからHはまぼしそうな目つきをして出て来た。
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「失敬しましたついねちゃったんで……」
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笑いながらそんな事を云って手の甲で目をこすった様子が子供めいて居ると母親は、
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「ハイ、御目覚、――音なしくめえめをちゃました御褒美にこれをあげまちょう」
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こんな事を云ってガラスの切子のつぼの中に西洋がしのこまっかいのを一っぱいつめたのを出して来た。
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「キャラメルがありましょうか」
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Hさんはあまったれる様に云って桃色のと茶色のとをとってもらって、
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「今夜は私も奥さんの子供にして下さるでしょうネエ」
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と云った。
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「うすっきみのわるいほどでかっ子だ、母さんと四つほか年の違わない子だなんて――あんまりずうずうしい……」
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千世子は軽口を云ってHの手から桃色のキャラメルをさらって行ってしまった。
夜おそくなるまで千世子は母さんと三人で話して居た。まっかなこの上もない花をまんかなに据えてうす青な光線の中でHと二人きりでその顔を見つめたっきりで居て見たいなんかと思って居た。
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「私はHさんを何とか思ってるんだろうか、私は、ただすきだと云うだけで後ずさりもすすみもしないことをのぞんで居る、どっちに行ってもあんまりよくない結果になるにきまって居る」
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ねしなに千世子はこんな事を考えた。
久しぶりで学校に出た千世子は皆からちやほやされて帰るまで妹か子供の様に思ってる友達にとりまかれて居た。
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「こんな事はだれでもがして呉れる事だ、珍らしい内ちやほやされるなんかは有がたくもない」
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こんな事を思っていろんな御あいそを云う友達に小さなものをあやす様に、ばつを合わせて居た。うけもちの教師は、
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「まだ少し青うござんすよ」
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なんかと云って千世子のかおをわざとらしく見たりして居た。千世子はた
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