堅い影をただよわせて居る人だった。
その伯父と云う人は千世子に通り一ぺんの口を利《き》くとそのまんま赤帽の方へ行った。
ただ見かけただけだったにしろ、ろくに笑いもしない様な伯父と京都まで差し向いで居なければならないのかと思うと斯うやって満足して居る京子がみじめな様に思われた。
プラットフォームに入っては口もろくに利けないほど急《せ》いた気持になって持って来たチョコレートの折《おり》をわたしたりしわになった衿をなおしてやって居るともう発車の時になって仕舞った。
コトリと動き出して、京子の窓が三間ほど向うへ行った時千世子は何の未練《みれん》もない様にいつもの通りの歩きつきでサッサッと停車場を出て仕舞った。
急に開けた往来の真中に立って見知らずの人達がただスタスタと目の前を歩いて行くのを見ると急に友達を送って来たと云う一種異った淋しい様な気持が千世子の胸に満ちた。
電車の中では隣りの人の雑誌に心を引かれてすぐに家に行きついた。
入り口の石の上に見なれない下駄がそろえてあった、来た人が誰だか千世子には一寸想像がつかなかった、母親の居間で客の話し声が聞えた。
男にしては細い上っ皮
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