のかすれた様な声をその人は持って居た。
千世子は自分の部屋に入ると懐のいろんなものを机の上にならべた時母親に呼ばれて千世子は居間に行った。
あけっぱなしの縁側のわきに座ると母親は自分の近い身内の者で千世子にもかなり近い人だと云った。
柔かな厚い髪が額にかかって思いのこもった眼と白い良くそろった歯をその人は持って居た。
肇と云う名だった。
顔が細くて男にしては喉仏の小さいのや、少しずつひかえ目に内気に物を話すのが千世子には快い気持を起させた。
初対面のほぐれにくい話の緒をもてあます様にして居る肇の態度がまだそうはすれない人の様に見せてじきに一つ事に熱中するらしく見せて居た。
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又|度々《たびたび》いらっしゃいな。
今度の時は御馳走してあげますよ。
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などと母親に云われて肇が帰るとまだ肇の小さい時の事なんかを話してきかせた。
十二三になっても夜は一人で「はばかり」へ行かれなかった児だったとか、すぐ物を恐れる癖があったとか云うのがその様子に思い合わせて千世子にはうなずかれる様な節々が多かった。
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