思われて立つ時間を聞きにやった。
いよいよ立つ日には落ちては来なかったけれど泣きそうな空模様だった。
御昼飯を仕舞うとすぐ千世子は銘仙の着物に爪皮の掛った下駄を履いてせかせかした気持で新橋へ行った。
西洋洗濯から来て初めての足袋が「ほこり」でいつとはなしに茶色っぽくなるのを気にしながら石段を上るとすぐわきに、時間表を仰向いて見て居る京子の姿を見つけた。
奇麗に結った日本髪の堅《かた》くふくれた髷が白っとぼけた様な光線につめたく光って束髪に差す様な櫛《くし》が髷の上を越して見えて居た。
だまって先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐ後から軽く肩を抱えた。
急に振りっ返った京子は顔いっぱいに喜んで、
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「まあ来て下さったの、わざわざ。
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そう云ったっきり千世子の手を振って涙含んだ眼で胸のあたりを見て居た。
そんなに時間もなかったので千世子は入場券を買って居るとわきに居た京子は、
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伯父ですの。
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と云って一人の男の人を引き合わせた。
うすい地のインバネスを被《はお》って口元に絶えず
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