こで字下げ終わり]
千世子は、こぼれそうな体《からだ》の処々《ところどころ》を細いのや太《ふと》いやの紐でくくって居る様な京子の体を時々ジロジロ見ながら、自分の今書こうとして居る筋を話して聞かせたり一寸した有りふれた話をした。
京都へ行ってからの事ばっかりを云って居る京子は、鴈次郎の紙治が見られるとか、純粋な京言葉を習って来るとか、いつもにないはでな口調で話した。
[#ここから1字下げ]
「京都に貴方の体はつり合わない。
[#ここで字下げ終わり]
むくむくしてかたい腕や、黒い手先をこすったりした。
これからざあっと一月又会わなくなると云う事等は一寸も悲しい事にも淋しい事にも思えなかった。
新らしい書[#「書」に「(ママ)」の注記]み物を二冊ほど持って京子はせっついて帰った。
立つ日も聞こうとしなかったし御大事に行らっしゃいなんかとも云おうともしなかった。
ましてステーションまででも送ろうなどとは夢にさえ思わなかった。
只旅に出る事ばっかりをそわそわして嬉しがって居るのが千世子にはたまらなく気にさわった。
けれ共翌日になるとこのまんま一日も会わないのはいかにも物足りなく
前へ
次へ
全37ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング