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 ええいらっしゃったんでございますよ八時頃に。
 お留守だって申上たら随分がっかりした様に御玄関にかなり立って居らしったんでございますからほんとに御気の毒でございましたよ。
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 千世子は渋い渋い顔をした。
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 まあそうだったのかえ。
 すまなかった。
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と云ったっきりのろい手つきで着物を着換えたりした。
 帯の「しわ」をのしながら女中は京子が旅へ出かけるらしい事を云って居たなどとも云った。
 翌日朝早く京子の家へ「今日は一日居るから」と云ってやった。
 午後ももう日暮方になって京子は重そうな銀杏返しに縞の着物を着て手が目立って大きく見える様な形恰《かっこう》をして来た。
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 随分待って居たんだけれど昨夜《ゆうべ》だけはどうしたんだか出掛けた処へ貴方が来たんだもの。
 悪うござんしたねえ。
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 京子の千世子よりずっと大きい躰を見て云った。
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「いいえ、何んとも思ってやしない。
 でもお留守だって云われたら変になったの。
 どうだった事?
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