たら帰るんだって云ってよこしたんです、雨が止《や》まなくちゃあ困る。
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 京浜電車と市街電車で長い間揺られなければならないのに降りこめられては何かにつけて困るだろうなんかと思った。
 京子の来るまでの三日は何にも仕《す》る事が無い様な顔をしてやたらに待ちあぐんだ。
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 もう今日あたりはほんとうに来て呉れるんですよ、昨日《きのう》だって待ちぼけなんですもの。
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 母親に独言の様に云ったりした。
 その日の夜千世子は何となし後髪を引かれる様な気持になりながら或る芝居に行って仕舞った。
 かなり前から見たいとは思って居たけれど行って見ればやっぱりしんから満足出来るものではなかった。
 時々舞台からフーッとはなれた気持になって今時分あの人が来てやしまいかなんかと思った。
 それでも身綺麗にした若い人達の間を揉まれ揉まれしてゆるゆる歩いて居る時にはいかにも軽い一色《ひといろ》の気持になって居た。
 クルクルに巻いた筋書を袂に入れてかなり更《ふ》けてから「まぶた」のだるい様な気持で帰るとすぐ京子は来たかと女中にきいた。
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