かったけれ共|旧家《きゅうか》だもんで今東京で相当に暮して居る。
千世子の家とはかなり親しいんで千世子なんかもちょくちょく行った。
大伯母さんと千世子なんかは呼んで居た。三十八九の時、信二をもったので息子の年の割に母親は老《ふ》けて居て鬢《ビン》はもう随分白く額なんかに「涙じわ」が寄って居る。
まとまった意味のある話の出来ない人でクタクタな首をふらふらさせながら涙組んで、
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父親が無いんで何かにつけて彼も可哀そうでねえ、
どんなに頼《たよ》りがなかろうと思うと。
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なんかと泣く様に云われると、
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ほんとうにねえ。
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と云いながら千世子は座って居る腰をストンと落して大伯母と一緒にクタクタになりそうに気がめ入った。
大伯父はしっかり者で頭の明かな人だったから好い様だったけれ共その夫《おっと》になくなられて後このクタクタな年中悪酒に酔わされて居る様な頭の大伯母が一人で自分の老後の掛り児をなみなみに仕上げ様とする努力は実に普通の母親が三人子供を仕立てる位のものだった。
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