しない事でありながら肇についてそんな事の思われたのはいかにもいやだった。
自分の一度でも口をきいた人達は皆幸福であって欲しいと自分の身の幸福なお陰《かげ》で千世子はいつまでもそう思って居るのが天《てん》からぶちこわされて仕舞った様な気がした。
どうしても幸福であらせたい。
千世子は仲の善い同胞《きょうだい》の様な又|慈深《なさけぶか》い母親が子を思う様にしみじみとそう思った。
肇が帰って仕舞ってからも母親に、
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お前はどうしたの。
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と云われるまで肇は何となし不幸らしい人だと云う様な事を幾度も幾度もくり返して話した。
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早死にでも仕そうだ。
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フット寝しなにそう思った千世子は若し彼の人の命の燃木が自分の手の届く処にあったら先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐ揉み消してしまいたく思われた。
(三)[#「(三)」は縦中横]
もう十年ほど前に亡《な》くなった大伯父の一人っ子に男《おとこ》の子がある、十八で信二《しんじ》って云う。
大伯父が純宗教家でそう華々しい生活もして居な
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