って来る大浪を乗り切れないでその浪の中にのまれて姿の見えなくなる人が自分の友達の裡に数知れず有る、私もそうほかなれない人間かも知れない、でもやるだけはやって見る、若しそうなったらそれは私の運命なんだから。
眼先にちらつく物を追いはらう様な顔をしながら肇は低い声で云った。
幼い時っから不幸な目にばっかり会って来た自分はこれから何か仕様と云う希望はあってもいつでも何とも知れずそれに手をつけると善くない事が起って来そうに思われていけない。
物事をするのにあんまり考え深すぎる、いくじなしな人間の様に見える事がある。
自分の淋しい過去を思い出した様に涙組んだ様になった肇の大きな眼を見ると、兄弟がなくとつられて泣く赤坊か何かの様に千世子も淋しいうるんだ気持になってこの先にだけは幸福にあらせたいなんかと思ったけれ共その影のうすい様に細い体や愁の絶えない様な声を聞くと肇の体が世の中から去るまで悲しい影がつきまとって居る様に見えた。
千世子はこれから草を刈ったり耕したりしなければならない畑地が苗を下すに合うか合わないか分らない様につくつくとのびて行くか、根ざしさえ仕ずに枯れて仕舞うんだか分りも
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