》もなく嫌いな人の噂や「何子氏」と自分の旦那様から呼ばれるその奥さんの事も散々頭ごなしにした。
 文学に携《たず》さわって居る女の人の裡には随分下らない只一種の好奇心や何となし好きだ位でやって居る人だってある。
 満足する様な人は一人だって無い。
 少し婦人雑誌で名が売れると一つ二つ著作してもう文士気取りでカフェーをほっつき廻る。
 文士と云う名から気に入らないしその裡にゴチャゴチャになってホイホイして居る女の人達ももう一層嫌いだ。
 千世子は亢奮した口調でこんな事を云った。
 話した後で黙って聞いて居る母親と肇の顔を見るとあんまり云い過ぎたと云う様な気持になって取っつけた様に笑った。
 そして、斯うやっていく分かはお調子に乗って話し込んだ自分の頭のなかみをすっかり肇に見すかされた様ないやな気がした。
 それでも肇は千世子の云った事に賛成した。
 男の人達の裡にだってそう云う人はいくらでもある。
 よっかかりのあるうちは華に小鳥の様にさわぎ廻って居た文学ずきの人達がその頼りを失って世の中に投げ出された時、自分の持って居た自信よりも値《ねうち》のない自分の頭がドシーン、ドシーン、とぶつか
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