したまんま書物《かきもの》をして居た。
 ギッシリと書籍《ほん》をつめて趣のある飾り方をして居る千世子の部屋を「誰かに見せてやりたい」などとも自分で思って居る千世子は出来る事なら肇にこれを見せて驚かしてやりたいと思わないでもなかったけれ共仕事に段々気が乗るに随《したが》って肇に部屋を見せてやりたいなんかと云う気持が感情《こころ》の裡から抜け出して仕舞った。
 そしていつもの癖をむき出しに紙をなめる様にしてペンを運《はこ》ばして居た。
 そうして居るうちに肇が来て帰って仕舞ったと云う事は思いもよらない事だった。
 肇は母親が呼ぼうとしたのに邪魔するのはお止《や》めなさいって止めたなどとあとから聞いた。
 でもまけおしみの強い千世子はそれについてあとでは一言も云わなかった。
 肇に話そうと思って居た事を夜母親に話してきかせた。
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 どう云う性格の人だと御思いになる?
[#ここで字下げ終わり]
などと千世子は母親に云った。
 けれ共これぞと云う人格をはっきり云う様な事はしなかったが心のなかでは「ハーア」と思って居る位は千世子にだってわかって居た。
 何にもそう追求する必
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