した事でほぐれるといかにも自由に肇はいろんな事を千世子にはなした。
予期して居た通りいつ来た時でも「あくび」が奥歯の隅でムズムズする様な事がなかった。
自分の生い立ち等を話す時はあんまり神経的になりすぎた。
けれ共一度寄せた大浪が引く様に高ぶった感情がしずまると渚にたわむれかかる小波《さざなみ》の様に静かに美くしく話す、その自分の言葉と心理《こころ》をどうにでも向けかえる事の出来るのを千世子は羨《うらや》みもし又恐ろしい事だとも思った。
千世子の好《す》いて居る詩人をすき、絵風を好み、話をすく、肇は話がはずめば随分も長い間居た。
けれ共|灯《ともし》のつくまでも千世子を相手にしゃべる事はあんまりしなかった。
人の物を食《た》べる口つき手つきで千世子は人がきらいになる事がないでもない。
漸く話のわかって来た友達を失うと云う事は嬉しい事ではないので結句《けっく》その方が流《なが》し元まで響き渡ってよかったのである。
――○――
其の日は随分暑かった。
明けられる「まど」は少し位無理をしたって開けっ放《ぱな》して客があったらすっかり裡《なか》が見える様に
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