きたなかったりするともうしんからがっかりして仕舞うのが癖だった。
 家《うち》の者達は何でも物事を奇麗にばっかり思って居る千世子はまるで世間知らずな小娘の様だなんかと云う。そんな時には千世子はむきになって「美くしさ」と云う事を説《と》く。
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「美くしさと云うものはどんな物にでもひそんで居る、その表面には出て居ないながらも尊い美くしさを速《さと》く感じる事の出来ないのは一生の方《う》ちには半分位損をする。
 自然の美くしさをあんまりわすれかけると大変な事になって仕舞う。
 人工の美くしさにはかなりな批評が出来るけれ共自然の美くしさは批評をする事がなかなか出来ない。
 すき間も無い美くしさだから批評は入れられない。
 人の手の届かない美くしさを持って居るからだ。
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なんかとはいつでも云った。
 永い間つき合って居る京子にこんな種類の話は幾度仕たかわからない。
 京子はあんまり熱中して話す様になると、
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 美くしさの気違《きちが》いさん
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と呼んだほどである。
 そう呼ばれても千世子は満足して居る。

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