――○――
 葉書をうけとって間もなく千世子は返事を書いた。
 そしてあんまり棒の太くない首人形をお土産に持って来て呉れるのを忘れない様になどと戯談《じょうだん》らしく書きそえた。
 女中にたのんで出させにやると入れ違いに肇が訪ねて来た。
 いつも来るときまって通す部屋に入れて千世子はいかにも喜んで居るらしい目つきでまとまりのつかない事をいろいろと話した。
 散歩に出た時の話だの旅行に行き度いと思うなどと一時間も立てばフイになって仕舞うほど実《み》のない下らない事を二人は話した。
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「ねえ、
 もう少しどうかした話はないんでしょうか?
「さあ、
 もう少しどうかした話しって。
[#ここで字下げ終わり]
 上品な肇の沈黙がまたひろがって行く。
 千世子は大きな籐椅子に倚《よ》って肘掛《ひじかけ》に両肘をもたせて両手の間に丸あるい顔をはさんでじいっとして居た。
 どっちかが口を切らなければ斯う云う沈黙はいつまでもはてしなくつづくのである。
 何とはなし重っ苦しい垂幕《たれまく》の様な沈黙をやぶって口を開くのは大抵の時は千世子であった。
 その時さっ
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