と》によって満足されるだろうと云う深く知り合わない人に対しての良い予期も心の裡に満ちて居た。

   (二)[#「(二)」は縦中横]

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 夜が一番美くしい。
 昼間のまっすぐに通った大路は淋しい人通りがあるばっかりでいかにも昔栄えた都と云う事がしのばれます。
 貴方にも都踊は見せてあげたい。
 祇園の舞妓《まいこ》はうっかり貴方に見せられないほど美くしい可愛いもんです。
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 自分で書いたらしい首人形のついた絵葉書に京子からこんな便《たより》があった。
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 貴方にうっかり見せられないほど――
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 その文句を見て千世子は一人笑いを長い事した。
 自分の性質をよく知って居る京子がうっかり見せられないと云うのはほんとうの事だろうと思った。「美くしい」と名のつくものは何んでも千世子はすぐ好《す》きになったそしてもうはなしたくない様な気持になった、下らない子供のおもちゃでもまた立派な道具でも奇麗だとなるとすぐ自分の者[#「者」に「(ママ)」の注記]にしたくなって仕舞う。
 だから、奇麗だと思って居たものが
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