頭の友達と、形の友達を持ちたいと思って居た。
 頭脳の機関《からくり》が手早く働いてねうちのあるものを産《う》み出せる友達を持ちたがった。
 けれ共その望は到底みたされ様にもなかった。
 少し頭の細やかな、頭の先立って育った人達は或る時期にある特別に涙っぽい気持を持って世の中のすべての事の一端をのぞいて全部だと思い込む人達であった。
 心の隅に起った目に見えるか見えないの雨雲《あまぐも》を無理にもはてしなく押し拡《ひろ》げて、降りそそぐ雨にその心をうたせる事を何の考えもないうちにして自《みずか》らの呼び起した雨雲《あまぐも》の空が自然の空の全部と思いなして居る人達だ。
 そうして千世子は頭の友達に満足は出来なかった。
 自分は奇麗にしずとも美くしいものを見、美くしい裡《なか》に生きて居たい千世子が友達に花の様な人のあって欲《ほ》しいと思ったのはそう突飛な事でもなかった。
 千世子が自分から進んで交際[#「交際」に「つき合」の注記]をしたいと思うほど美くしいに[#「いに」に「(ママ)」の注記]は会えなかった。
 たった一度千世子はフットした処でわけもなくただスンナリと美くしい人に会った。
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