で何か云い出そうとしてはフット口をつぐんで静かな無口になるのを千世子は興味ある気持でながめた。
肇のすきこのみなどを千世子は話すまで千世子は聞くまいと思ったし、千世子のすきこのみ、毎日仕て居る事、などは同様肇は何も知らなかった。
額《ひたえ》つき、眼つき、話しぶりで、大よその事は肇も知ったけれ共思って居る事の奥の深い処までその自分の想像をはたらかせない方が好いと思って居たのだ。
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人なんてものはあんまり知らない方が好いですねえ。
誰でも――お互に。
私《わたし》は自分から進んで人を知りすぎて大抵の時はうんざりする。
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千世子はこんな事を云う。
何だったかの折にジーット一つ処を見つめながら、
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尊い悲しみと、犯し難い沈黙は誰が持って居ても尊げなものだ。
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と云った肇の口調を千世子ははっきりとかなりの時間が経《へ》るまで覚えて居た。
多くの人は犯し難い沈黙を持つ事は喜びもし口にもする、けれ共尊い悲しみと云う物を思う人達の数は少ないものだろう。
心の正しい、直《すぐ》な人は喜びのみ
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