を見通した。
近所に住んで居る或る只の金持の昔の中門の様な門が葉桜のすき間から見えたり、あけっぱなしの様子をした美術学校の学生や、なれた声で歌って行く上野の人達のたまに通るのをジーット見て居ると、少し位の不便はあってもどうしても町中へ引越《ひっこす》わけにはいかない、なんかと思った。
入《はい》りしなに郵便箱をあけると桃色の此頃よく流行《はや》る様な封筒と中実《なかみ》を一緒にした様なものが自分の処へ来て居た。
裏には京子とあんまり上手《うま》くない手で書いてある。
あっちこっち返して見ながら、こんなやすっぽい絵なんかのぬりたくってあるものを平気で出してよこす其の人が自分の趣味とあんまり違って居る様でいやだった。
たった今自分が手紙をやった人がこんな事を平気で居る人だと思うとあんまり嬉しい気はしなかった。
部屋に帰ってあけて見ると、大森の見っともない町の不愉快さを涙をこぼすほど並べたててもう二日もしたらこっちへかえって来ると云ってよこした。
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行き違いになる――一寸千世子は思った。
まあ考えて御覧なさい。
目の下にはあの芥だらけの内海の渚がはてし
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