千世子(二)
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)無地《むじ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|度々《たびたび》いらっしゃいな。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)(一)[#「(一)」は縦中横]
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   (一)[#「(一)」は縦中横]

 外はしとしとと茅葦には音もなく小雨がして居る。
 千世子は何だか重い考える事のありそうな気持になってうるんだ様な木の葉の色や花の輝きをわけもなく見て居た。ピショ! ピショ! と落ちる雨だれの音を五月蠅く思いながら久しく手紙を出さなかった大森の親しい友達の処へ手紙を書き初めた。
 珍らしく巻紙へ細い字で書き続けた。
 蝶が大変少ない処だとか。
 魚の不愉快な臭いがどこかしらんただよって居る。
とか云ってよこした返事を丁寧に馬鹿正直な位に書いた。
 三日ほどしたらいらっしゃいとも云ってやった。
 白い無地《むじ》の封筒に入れたプクーンとしたのをすぐ前のポストに入れに自分で出かけた。
 中へ落ちて行くのを聞き届けてから一寸の間門の前に立って、けむった様な屋敷町
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