したまんま書物《かきもの》をして居た。
ギッシリと書籍《ほん》をつめて趣のある飾り方をして居る千世子の部屋を「誰かに見せてやりたい」などとも自分で思って居る千世子は出来る事なら肇にこれを見せて驚かしてやりたいと思わないでもなかったけれ共仕事に段々気が乗るに随《したが》って肇に部屋を見せてやりたいなんかと云う気持が感情《こころ》の裡から抜け出して仕舞った。
そしていつもの癖をむき出しに紙をなめる様にしてペンを運《はこ》ばして居た。
そうして居るうちに肇が来て帰って仕舞ったと云う事は思いもよらない事だった。
肇は母親が呼ぼうとしたのに邪魔するのはお止《や》めなさいって止めたなどとあとから聞いた。
でもまけおしみの強い千世子はそれについてあとでは一言も云わなかった。
肇に話そうと思って居た事を夜母親に話してきかせた。
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どう云う性格の人だと御思いになる?
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などと千世子は母親に云った。
けれ共これぞと云う人格をはっきり云う様な事はしなかったが心のなかでは「ハーア」と思って居る位は千世子にだってわかって居た。
何にもそう追求する必用もないし又只友達でなみなみにつき合って居る分ならなどと千世子は思って居た。
その晩千世子は両親の容貌の美醜によって子供の性質に幾分かに変化を与えられると云う事が必ず有りそうで仕様がないと話した。
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「ほんとにきっとあるんだろうと思う。
あるらしい気がする。
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そんな事を云って眠りたがる母親を無理に起して置いてしゃべりつづけた。
来る毎度に肇がぶちまけた話をする様になったと云うのはたしかである。
けれ共千世子の読む物、書くものに対して一歩もふみ込まない事がいかにも快い事の一つであった。
親切な保護者に両親はなるべきもので監督者にはなるもんじゃあない。
保護者として自分が思うのはあながち両親ばっかりと限ったわけでもない。
その人の云った事なら千世子は心から満足して随う事が出来る。
けれ共監督者には随っても心からではない。
そうは云うけれども真の保護者と監督者がどんなに違うかを味わってからでなくっては云える事じゃあない。
千世子はよく他処《よそ》の親の話が出たりすると母親に話したり肇になんかも一寸云った事もあった。
家内
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