そんなにわかって居ないんですよ私に――
「そんなら貴方、今度お帰んなすった時に丁寧に親切にそして器用にお両親の頭をのぞいて御覧なさるといい、
 きっと何かの結果のある仕事ですよ、
 私は貴方が少しずつでもお両親に近づける様になるにきまってると思います。
 ろくに二親の考えもしらないで居て近づけないのなんのかんのってったってまるで食べずぎらいみたいじゃあありませんかほんとうに。
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 二人は何ともつかない笑声をたてた。
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「でも若し頭の中に恐ろしいものが居るのを見つけたらどうでしょう。
 そうしたらほんとにまあ私はどうだろう。
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 肇はいかにも先を見すかして目の前に恐ろしいものでも見た様な声で云った。
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「それがやっぱり分って居ないからなんですよ、
 実の生みの親で気の狂った人ででもなければどっから見てもどっからのぞいても恐ろしいものなんかの有ろう筈は有りません。
 そりゃあたしかですとも、
 若し恐ろしいとか何とか思うのは只自分の感情が間違って感じたと云うんですよ、
 はっきりしたたしかな心と眼で
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