居ますよ。
 可哀いい白鳩の若い御夫婦が私の庭に来て呉れる日を今っから待って居るんです。
 香りの高い紫色の夏の暮方に舞う様子を私は今っから想像して居ます。
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 うすっぺらな手紙を女中に出させてから明日金物屋へ「きゃしゃ」な「ふせかご」を命じる事を忘れてはならない事の様に思いつづけて居た。
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 お前ねえ、
 どうしてもそう云わなけりゃあいけないよ!
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 千世子は女中の顔を見るなりいきなり云った。
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 何でございます?
 何かお云いつけんなったんでございますか?
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 女中は怒られる事を予期して居る様な眼つきをして居ると思って、
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「私怒ってるんじゃあないよ、
 あれさ!
 ほらこないだ云ってただろう、
 近いうちに若い御夫婦がいらっしゃるって――
 だからその人達の家を作ってやらなくっちゃあならないからねえ。
「へえ若い御夫婦って――
 どこへお家を御建て遊ばすんでございます?
「何! なんでもないんだよ、
 お前あした金物屋へ行ってね一寸目位の高さが
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