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欠伸《あくび》を歯の間でする様な声で云った。
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「私もう帰りますよ六時半までの約束が一つある、
ようやっと今から間に合うほどだから。
いつか上りますよ、誰かと一緒に――
「ええそいじゃあ左様なら、
つれて来ても好いから半端な数にしちゃあいけませんよ。
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こんな事を千世子は云いながら出入口まで篤を送って行った。
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風が出たらしいんですね。
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篤はこんな事を云いながら石の上を一つ一つ踏んで出て行った。
部屋に帰るとすぐ千世子は大きな椅子の上にうずまる様に腰をかけた。
そうして頭を後のクッションにうずめると泣きつかれた子供の様に夢ばっかりの多い眠りに入った。
ややしばらく立って目をさました時躰に羽根布団がかけられてわきに電気のスタンドがふくれた色にともって居た。
顔を手の甲でこすりながら不精らしく身動きをして、女中の名を呼んだ。
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まあ御目覚めなさいましたねえ。
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と大きな声で云って女中が入って来た頃千世子は髪
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