でつとめても出来ませんよ、
極端に走る人がつとめていいかげんにする事は出来てもねえ、
私の様な人間はこれっきりなんですよ。
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篤は静かな声で云った。
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「そう云う運命に生れたんですねどうしても。
「運命に?
私は運命に使配される事はしたくありませんねえ、運命なんてものは自分で開く事が出来ますもの。
私一人かもしれないけどそう思ってます、
又きっとそうであるらしゅうござんすよ。
運命なんてものはどんなたくらみがしてあるかしれたもんですか。
運命の司が『なぐさみ』の多い様に気の小さい人間共にあやうい芸当をさせてよろこぶんですよ。
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意志[#「志」に「(ママ)」の注記]っぱりでも、と云った調子に千世子は強くこんな事を云った。
そしてもうほんとうにしんからつかれた様に椅子に頭をもたせて眼をつぶって居た。
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疲れたんでしょう?
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篤は笑いながらきいた。
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ええ、
あんまりしゃべり様が多かったんでね。
いつも斯うなんですから。
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欠伸《あくび》を歯の間でする様な声で云った。
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「私もう帰りますよ六時半までの約束が一つある、
ようやっと今から間に合うほどだから。
いつか上りますよ、誰かと一緒に――
「ええそいじゃあ左様なら、
つれて来ても好いから半端な数にしちゃあいけませんよ。
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こんな事を千世子は云いながら出入口まで篤を送って行った。
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風が出たらしいんですね。
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篤はこんな事を云いながら石の上を一つ一つ踏んで出て行った。
部屋に帰るとすぐ千世子は大きな椅子の上にうずまる様に腰をかけた。
そうして頭を後のクッションにうずめると泣きつかれた子供の様に夢ばっかりの多い眠りに入った。
ややしばらく立って目をさました時躰に羽根布団がかけられてわきに電気のスタンドがふくれた色にともって居た。
顔を手の甲でこすりながら不精らしく身動きをして、女中の名を呼んだ。
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まあ御目覚めなさいましたねえ。
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と大きな声で云って女中が入って来た頃千世子は髪を解いて梳って居た。
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「お客様がおすみになるとすぐおよったんでございますねえ。
「あああんまり話したんでね、
すっかり疲れたんだよ。
「私はまあ、貴方様があんまり大きなお声でお話しなすっていらっしゃるからどう遊ばしたんだと思って居りましたの。
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女中はこんな事を云ってわけもないのに大きな声をたてて笑った。
そして女中が牛乳を銀色に光る器に入れて持って来た時また元の椅子に腰をかけて千世子はうつらうつら寝入りそうな気持になって居た。
軽い夕飯をすましてから千世子は近頃にない真面目な様子でたまって居る手紙の返事や日記をつけた。
その日から三日先の頁へほんの出来心で千世子は大きく白い処いっぱいに、「赤んべー」をして居る顔を描いた。そしてそのわきにボキボキと、
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いいい
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と書きそえた。
自分でもよくあきないで居ると思うほど長い間それを見つめて居た。
白鳩を呉れると云ってよこした友達に斯んな返事を、不器用なペン字で書いてやった。
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小供っぽい私はほんとうに喜こんで居ますよ。
可哀いい白鳩の若い御夫婦が私の庭に来て呉れる日を今っから待って居るんです。
香りの高い紫色の夏の暮方に舞う様子を私は今っから想像して居ます。
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うすっぺらな手紙を女中に出させてから明日金物屋へ「きゃしゃ」な「ふせかご」を命じる事を忘れてはならない事の様に思いつづけて居た。
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お前ねえ、
どうしてもそう云わなけりゃあいけないよ!
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千世子は女中の顔を見るなりいきなり云った。
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何でございます?
何かお云いつけんなったんでございますか?
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女中は怒られる事を予期して居る様な眼つきをして居ると思って、
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「私怒ってるんじゃあないよ、
あれさ!
ほらこないだ云ってただろう、
近いうちに若い御夫婦がいらっしゃるって――
だからその人達の家を作ってやらなくっちゃあならないからねえ。
「へえ若い御夫婦って――
どこへお家を御建て遊ばすんでございます?
「何! なんでもないんだよ、
お前あした金物屋へ行ってね一寸目位の高さが
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