でつとめても出来ませんよ、
極端に走る人がつとめていいかげんにする事は出来てもねえ、
私の様な人間はこれっきりなんですよ。
[#ここで字下げ終わり]
篤は静かな声で云った。
[#ここから1字下げ]
「そう云う運命に生れたんですねどうしても。
「運命に?
私は運命に使配される事はしたくありませんねえ、運命なんてものは自分で開く事が出来ますもの。
私一人かもしれないけどそう思ってます、
又きっとそうであるらしゅうござんすよ。
運命なんてものはどんなたくらみがしてあるかしれたもんですか。
運命の司が『なぐさみ』の多い様に気の小さい人間共にあやうい芸当をさせてよろこぶんですよ。
[#ここで字下げ終わり]
意志[#「志」に「(ママ)」の注記]っぱりでも、と云った調子に千世子は強くこんな事を云った。
そしてもうほんとうにしんからつかれた様に椅子に頭をもたせて眼をつぶって居た。
[#ここから1字下げ]
疲れたんでしょう?
[#ここで字下げ終わり]
篤は笑いながらきいた。
[#ここから1字下げ]
ええ、
あんまりしゃべり様が多かったんでね。
いつも斯うなんですから。
[#ここで字下げ終わり]
欠伸《あくび》を歯の間でする様な声で云った。
[#ここから1字下げ]
「私もう帰りますよ六時半までの約束が一つある、
ようやっと今から間に合うほどだから。
いつか上りますよ、誰かと一緒に――
「ええそいじゃあ左様なら、
つれて来ても好いから半端な数にしちゃあいけませんよ。
[#ここで字下げ終わり]
こんな事を千世子は云いながら出入口まで篤を送って行った。
[#ここから1字下げ]
風が出たらしいんですね。
[#ここで字下げ終わり]
篤はこんな事を云いながら石の上を一つ一つ踏んで出て行った。
部屋に帰るとすぐ千世子は大きな椅子の上にうずまる様に腰をかけた。
そうして頭を後のクッションにうずめると泣きつかれた子供の様に夢ばっかりの多い眠りに入った。
ややしばらく立って目をさました時躰に羽根布団がかけられてわきに電気のスタンドがふくれた色にともって居た。
顔を手の甲でこすりながら不精らしく身動きをして、女中の名を呼んだ。
[#ここから1字下げ]
まあ御目覚めなさいましたねえ。
[#ここで字下げ終わり]
と大きな声で云って女中が入って来た頃千世子は髪
前へ
次へ
全34ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング