けることのない、顔と手の小さい寡婦だ。向いあいでナースチャは不恰好な子供服の裾かがりをやっている。うしろの板の羽目へ黄色い編下げの頭をくっつけ、相手によっかかるようにしてシューラがナースチャの肱を二本の指で締めつけた。シューラは退屈だ。シューラは茶色の服を着た骨っぽい肩をブルブル震わせ、ナースチャの顔色をうかがいつつ指に力を入れる。
「オイ! シューロチカ!」
「痛い?」
 黙ってナースチャは肱を動かし、シューラの手をはらいのけた。シューラは蒼い顔でにやにや笑った。しばらく間をおきこんどは、おはじき[#「おはじき」に傍点]でもするように首をまげ、狙いをつけ、ナースチャの肱の関節を弾きはじめた。これをやられるとなにかの機勢で腕がピーンと指の先までしびれ、心持が悪いと云ったらない。ナースチャは怒って悪態をついたり、追いまわしたりした。シューラは、だから退屈だとこのて[#「て」に傍点]を使うのだ。ナースチャは、裾かがりの上にうつ向いたまま激しくシューラを小突いた。
「およしったら! シューロチカ」
「なぜさ」
「きこえないの? お、よ、しっていってるのが」
 ナースチャは、どんなにふざけたっ
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